第二話

「うっ…?あれ…ここ?」
 有紀は朦朧とする意識の中、目を覚ました。
「ユウ君…目、覚めた…?」
「あれ…僕…一体…」
 チラリとあたりを見渡すと有紀はベッドの上で寝かしつけられ
すぐそばで可愛い少女が心配そうな顔で見つめていた。
「ユウ君、倒れちゃったんだよ…心配しちゃった。
ごめんね、無茶させて…」
(あ…そうか…僕は愛ちゃんとエッチしてそれで…)
 有紀は先ほどの愛との行為で自分が女のようにイカされたことを思い出して
顔を真っ赤にして俯いてしまった。
それを悟られないように有紀はとすぐに愛に言葉をかけた。
「いや…君が謝ることはないよ。その…、あの…、途中で倒れた僕が悪いんだ…」
「けど…」
 泣きそうな顔でこちらを見つめる愛。
その瞳はとても澄んでいたが、有紀を気絶させてしまったことを悔いるような
弱々しいものであった。
(おいおい、まるで死人を悲しむような顔はやめてくれよ)
 有紀はポンと愛の頭に手をおいて撫でてやった。
「愛ちゃんは全然悪くないよ。僕だってほら、ピンピンしてる。
それに…えーと…キモチよかったし…さ…」
コホンと咳払いをしながら愛の頭をなでなでしていると
次第に愛の顔も綻びはじめ
「えへへ…」と可愛らしい笑みを浮かべながら嬉しそうな顔をした。
(か、可愛い…)
 有紀は先ほどの愛とはまた違うあどけない少女の笑みにドキッとした。
「え、えーっと…それじゃあ…僕はそろそろお金払って帰るね」
 近くの床に置いてあったカバンから財布を取り出そうとベッドから出ようとして
有紀は自分の下着を身に着けていることに気がついた。
「あ…下着、穿かせてくれたんだ…」
「うん、ユウ君が風邪引いたら困るもの」
「あ、ありがとう…」
 真顔で風邪を引いたら困ると言われ、またもやドキッとしてしまい
そそくさと財布からお金を取り出そうとする。
(はぁ…こうやっていざ金を払うとなるとなんか惨めだなぁ…)
 愛はあくまでお金のために有紀とエッチをした。
しかも有紀だけがさんざん楽しみ(?)
愛を気持ちよくさせてやることさえ出来なかったのがますまさ惨めだ。
渋々お金を取り出し愛に受け渡そうとすると、
「いらない…。そんなモノいらないよ」
 愛は予想外のことを言い出した。
「私すっごく楽しめたから。ユウ君からお金なんて取れない」
 それは有紀にとって非常にありがたい。
けどそれは矛盾している。彼女はどうしてもお金が欲しくて援交を望んだはずだ。
「けどそれじゃあ援交の意味が…」
「もー、何!?そんなに私に貢ぎたいの?
せっかく私がいらないって言ってるのに!」
愛は先ほどのまでの弱々しい雰囲気から一転して突然プンスカ怒り出した。
そのギャップが実におもしろい。
「わ、わかった、わかった。わかったから!」
(ヤレヤレ、やっといつもの彼女に戻ってくれた。
お金の件はよくわからないけど、まあいっか)
腑に落ちないものの彼女がいいと言うのだから結局お金は払わないことにした。

それから30分ほど2人は学校のこと、身近のこと、友人のことなどを話しあった。
その時の愛はお喋りで本当に楽しそうに友人のことを有紀に自慢していた。
気がつけば時計もすでに7時をまわりだしたので、有紀がそろそろ帰ろうかと考
えていると
「ユウ君にちょっと…、これ…」
愛はコルク栓のしてある小さな瓶を取り出した。
中にはほんの一口で飲み干せる量の透明な液体が入っている。
瓶には『ORG-01』と書かれたラベルが貼られていた。
「何これ…?」
有紀は一体それがなんなのかまったく検討がつかなかった。
「これはね…、一時的にペニスの機能を低下させて萎縮させるお薬。
低下っていうのは実は語弊で、本当はペニスを縮めることで神経繊維の密度を
高めて擬似陰核をつくりだすものなんだけど、
そんなこといちいち説明してもわからないだろうから置いといて…
効果は…まあ長くて3時間くらいかなぁ…。パパがつくったお薬なの」
「そ、それをどうして僕に…?」
嫌な予感がし、有紀はおそるおそる愛に尋ねる。
「まだ説明が終わってないよ。ペニスのサイズは大体通常の5分の1くらいの
サイズに なっちゃうんだけど全然平気よ!一時的にクリちゃんになっちゃう
だけだもん。
それに2,3時間もすればすぐにもとに戻るんだよ。世紀の大発明よね!!」
(クリちゃんって…おいおい…)
目を輝かせながら愛はとんでもないことを口にしていた。
「僕はそんなものいらないよ」
有紀は先手を打った。そんなわけもわからない物騒なものを頂けるはずがない。
先にキッパリと断ってしまえばいいのだ。
「そ、そんなぁ…」
みるみるうちに愛はシュンとした顔になり今にも泣き出しそうだった。
(うっ、そんな顔しないでくれよ…。
けど、ここで妥協したら僕はあの得体の知れないアヤシゲな薬を…!!)
「僕はそんなものいらないよ」
まったく同じ台詞を機械的に言う。
(心を鬼にしろ!僕は鬼だ!何言われたって妥協しないぞぉぉぉぉ!!!)
「そもそもそんなもの僕がもらってどうするんだい?僕はもう帰るよ」
悲しそうな顔をした愛の顔は敢えて見ずスタスタと愛の横を通り過ぎ帰ろうとした。
しかしその時
「クスッ……」
愛が背後で静かに笑った。ピタリと有紀の足が止まる。
「ユウ君のおバカさん…。私はユウ君のために言ってあげてるのよ…」
愛はそっと有紀に近づき、人差し指で有紀の背筋を軽くなじる。
もの静かで加虐的なその声と仕草は有紀をイカせた時のものだった。
「ぼ…、僕のため…?」
愛は有紀の背中に密着して甘い声で有紀に言った。
「女の子になりたいって言ったじゃない…。クスッ…、涎まで垂らしながら…。
ほら…あの時のこと思い出しただけで…ココ、こんなになっちゃったね…
オマセさん…フフッ」
不覚にも有紀は制服のズボンをパンパンにしていた。呼吸が僅かに乱れる。
「あ、あれは…、た…ただ…その場の成り行きで仕方なく…」
「そうかしら…?けど…とても気持ち良かったんだよね…?
ドライでイッた時の顔なんかまるで初めて潮吹きした女の子みたい…」
「う…」
愛の言葉に少しずつ心が揺らぐ。
しかしそんな事よりも先ほど愛との行為を思い出してしまい、
今の愛の言葉を否定出来ずに勃起させてしまっている自分自身に心が揺らいだ。
なぜか女の子と呼ばれるたびに胸が高鳴る。
今まで散々背が低いだの童顔だの言われ
コンプレックスにさえ感じていたはずなのに…。
「ユウ君の悪いトコだよ…、そうやって自分の気持ちに素直になれないところ…」
じわじわと愛が有紀の心に侵食してくる。
「そ…っ、そ、そんな…こと…」
「あるわよ」
キッパリと愛は言い放つ。
「ほら…今度はさっきよりも女の子になれるよ…。ユウ君がなりたい…、ね…?」
少しずつ愛の言葉が有紀の心を捕まえ、シュルシュルと舐め回すかのように
有紀の心を縛っていく。
「ぼっ、ボク…は…」
(女の子になんか…なりたいわけ…)
口だけではなく、心の中でさえも愛の言葉を完全に否定することは出来なかった。
「淫らな女の子になりたいんでしょう…?」
それをいいことに愛の言葉はさらに有紀を蝕み、有紀をズタズタにしていく。
「何かの…まちが…」
「間違いなんかじゃないわ…。あなたは…もうすでに―――」

―――オンナの虜なんだから。

有紀の心がグワングワンと何かにスウィングされるかのように響く。

そして、ついに

「は、い―――」
有紀は認めてしまった。自分の奥底にある欲望を。

***

有紀は結局小瓶を家に持ち帰った。
しかし持ち帰っても別に使わなきゃいいんだ、と自分を納得させていた。
家で家族との夕食をすませ、ベッドに横になり暗がりの中で
キラキラと不気味に光を反射させる透明で個性のない液体が入った瓶を手に
とって眺めていた。

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