Angels

前日の夜、寝る間際までは確かに男だったのに・・・
朝、起きたら自分が女の体になっていた。

体に違和感を感じ目覚めてから数十分。
思考の切り替えは早い方だと自負していたが‥
薄いと言われていた胸板には、柔らかい脂肪の塊。
寝間着代わりに来ていたTシャツにプリントされた
安っぽいキャラクターが今の状況を笑うかのように広がっていた。
トランクスは細くなったらしいウエスト位置からずり下がっていて、
腰のところで留まっていた。
そこから下の方は‥見る勇気がなかった。
何となく物足りないような感覚があったのは、気のせいということにしておこう。

「んむー‥」
背後から聞こえたくぐもった声に、大事なことを思い出した。
隣で起こっている事態をまったく知らぬまま
いびきをたてる男を揺すった。
「光……光司朗…コウ‥起きろ、馬鹿兄貴!!!」
あまりにも呑気な寝顔に激昂し、枕を置いた上に
ドラ○もんの大きな目覚まし時計を振り下ろした。
直接顔に落とさなかったのはかろうじて残っていた理性からの優しさだ。
「っ、てぇぇ!何すんだよ、天!!」
飛び起きた男、コウこと光司朗は起きかけとは思えないくらい元気に叫んだ。
「うっせぇ!近所迷惑だ、叫ぶな。起きなかったお前が悪い!‥じゃなくて」
論点がずれそうになり、ガシッと伸びきった襟口を掴んで
光司朗の顔を至近距離まで近づけた
「あのな‥女になってんだよ」
「は?」
「体。女になってんだよ‥」
俺が顔を下に向けたのを光司朗は視線で追ってくる。
そこにある女としての象徴に目を留めて。
一度瞬きした後、いきなり光司朗の手が伸びてきた。
掌に触れられる感触に背筋を鳥肌が駆け上っていく。
「触るな!」
正面の後頭部に肘鉄を埋め込んだ。
「痛い‥夢じゃないな。サイズはBの75とみた」
どさくさに紛れて、分析している光司朗を殴る気力も既に無くなりかけていた。
俺も夢だと思いたかったよ‥
長いため息と一緒に肩を落とした。
「羽、出るのか?」
光司朗の言葉に、一番気にしなければならなかったことを思い出した。
「たぶん‥」
目を閉じて神経を背中に集中させた。
ぶわりと風を巻き込むようにして広がる純白の翼は、見たところ異常は認められなかった。
もう一度集中すると、翼は跡形もなく消えた。
「よかったーこれで力まで無くなってたらお笑いだよ」
今のところ唯一の光明を見つけられて、安心した。

俺たちは人間が言うところの『天使』ってやつで。
普段はこの世のどっかにある天界で暮らしている。
そこには老若男女様々な天使がいるが、
子供時代を過ごした天使は一定期間研修として、
人間界に降り自力で生活をしなければ
立派な大人として認められない。
大人になれないということは、仕事だって出来ないし
もちろん結婚だって出来ない。
色々な特約や役職を得るための昇級試験なんて
受けるどころか、門前払いされてお終い。
だから研修はどんな天使でも真面目に受ける‥のだが。
過去にはよほど人間界が性にあったのかスカウトされ、芸能界デビューなんて
してしまった天使もいるらしい。
まぁ、なるべく気楽にやろうと降りてくる時に誓い合ったのだが‥
それが一変してしまったのが俺たちが生活し始めてから4日目の朝だった。

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